幻の一品 「あるでんて」の明太子イカマヨネーズ

あのお店でよく食べたお気に入りの一品。しかしそのお店が閉店してしまったことによって、もう二度と食べられなくなったという残念な状況は少なくありません。白石の「たるたる」でよく食べたインディアン。国分町のロック喫茶「ピーターパン」の斜め向かいにあった「タイム」でよく食べたツナ大根。中央通りから北へ入ったビルの地下にあった「あるでんて」でよく食べた明太子イカマヨネーズ。いずれもスパゲッティの献立で、高校時代から含めてどれほど食べたのだろうという品々。

やがて大人になり、「料理の鉄人」などテレビ番組の影響で自分も料理を作ってみようという気になるわけです。そこで思い出すのが昔によく食べたスパゲッティ。最初に挑戦したのは「たるたる」のインディアンでした。やや大きめで均等に切った玉ねぎとピーマン、そしてベーコンを炒め、茹で上がった麺を加えたらカレー粉(SBの赤缶)を散らしてさらに炒めます。最後にたっぷりのトマトケチャップを加えて混ぜたら出来上がり。要はカレー粉を加えたナポリタンなのですが、スパイシー具合をカレー粉で調節することによって、お店では辛さ3倍、辛さ5倍といった注文をしていたのです。

たっぷりの粉チーズをふりかけていただく「たるたる」のインディアンは比較的シンプルなわりに絶品で、当時はお店のマスターが作り方を教えてくださったこともあり、今でも鉄板の再現力を誇っている一品だと自負しています。しかし、「タイム」のツナ大根は再現性が90%、「あるでんて」の明太子イカマヨネーズの再現性に至ってはおそらく70%。お店で食べた味が完全に再現できません。

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もちろん、プロがお作りになった一品をド素人の私で再現できるはずがないのは重々承知しているわけですが、どうしてもそれを食べたいけれども食べさせてくださるお店がすでに存在しない。であれば自分で作るほかない。という単純で純粋な話しですが、これがなかなか簡単ではないのです。

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「あるでんて」の明太子イカマヨネーズは実にやっかいでした。これに挑戦し始めた時は失敗の連続。マヨネーズが凝固したり、イカが固すぎたり、何の旨みも感じられずただ塩辛いだけだったり。

調理の順序や火を入れるタイミングやその強さなど、試すべきことは無限にあるのですが、そのヒントとなるものは記憶の中だけでわずかに残る当時に食べた正規品の姿と味だけ。そもそも無謀な挑戦とも言えそうですが、もう一度あれを食べたいという食に対する欲求が私を突き動かすのでした。

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最大の難関は調味料。当時の「あるでんて」では、何席か用意されたカウンターに座ると視界に入ってきたキッチン。この明太子イカマヨネーズ系に使われるタレは、あらかじめ透明の瓶に入れられており、それを鍋に注いでいたように記憶しています。その「タレ」こそが命。醤油がベースに何かの出汁や旨みが加えられ、いわゆる和風系のスパゲッティ用に、あらかじめ仕込んであったようです。

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決してスープスパゲティではないのですが、皿の底に沈んだ明太子の最後のツブツブまで舐めるように平らげたツユだくで絶品の明太子イカマヨネーズ。閉店した「あるでんて」の消息は不明で、これと似たようなスパゲッティを出すお店にも未だに出会ったことはありません。あれは幻だったのか。

おそらく、誰しもが一つや二つは記憶の中に残っているであろう幻の一品。この明太子イカマヨネーズに限らず、当時の私たちに至福の美味しさを味わわせてくださったお店の方々。彼らに対する敬意と感謝を込め、幻の一品は永遠に幻のままであり続けるべきかもしれないとも思うのであります。