一枚の手を繋いだ写真

人それぞれに、無意識に取ってしまうポーズがあるのかもしれません。テーブルに肘を付いて手のひらであごを支えてみたり、あるいは腕組みしてみたり。公式の場では意識して行儀良く振る舞うのですが、リラックスできる時間に入ると無意識のポーズが始まります。それはもちろん、彼らも同じ。

ご飯の時間が近づいてくると、行儀良くスリスリしながら上目遣いで可愛く振る舞う我が家のニャンコたち。しかし、いったん満腹になるとその状況は一変します。見るからに横柄なその態度。それぞれに高い場所から兄ちゃんニャンコは片手をブラリと下げ、弟ニャンコは両手をダランと下げます。

P1030226

その態度は完全に上からで、目を細めて何かを言いたげな彼ら。近くに寄って手を繋ごうとすると、やめてくれと言わんばかりにその手を引っ込めるのです。実はこれが彼らなりのリラックスポーズ。これが始まると自分の時間なのでしょう。猫の手も借りたい時でも、こいつらだけは使えません。

P1030217

「手」で思い出すのが一枚の写真。今でも大切に飾ってある、十数年前に撮られた写真がこれです。

P1030242

14、5年前になるでしょうか。姪の家族と義母を連れ、総勢6名でハワイへ旅行に行ったことがありました。大きなミニバンを借り出し、オアフ島をあちこち周ったその旅は、まさにアロハ珍道中。もちろん私たちにとっても、他の参加者全員にとっても、かけがえの無い良い思い出となったのです。

そしてそれはワイキキビーチでの出来事でした。カミさんが3歳になる姪の子供と手を繋いで波打ち際で戯れていた時のこと。カメラを持った日本人男性が2人に近づいて行ったのです。ん?少し怪しげな雰囲気。離れたところから注意深く見守っていた私にも、不安がよぎりました。カミさんに何か話しをした後に、その男性は写真を撮り始めたのです。彼はプロのカメラマンとのことでした。

人の手をよく撮っているんです。特に、手を繋いでいるところを。撮影後に、彼は笑顔で私にも挨拶してくださいました。出来上がった写真を必ず送りますよ。そう言われてその場で住所を教えたのですが、正直なところまったく期待はしていなかったのです。わざわざ送ってくるはずがないだろう。

P1030241

仙台へ戻り、1ヶ月が過ぎた頃だったでしょうか。そのこともすっかり忘れていた私たちの元へ、一通の封書が届きました。同封されていたのは、あの時の写真。驚くことに彼は約束を守ったのです。

それ以来、プロのカメラマンに撮っていただいたこの一枚の写真は、我が家の宝物となりました。あの時にカミさんと手を繋いでいた3歳の女の子も今や高校3年生。多くの小学校で入学式を迎えた本日、街のあちこちで両親と手を繋いで歩くピカピカの1年生の姿が見られました。大切な誰かと手を繋ぐ姿は見ていても実に温かいもの。あの時のカメラマンの気持ちが分かったような気がします。