永い間、青葉通りと一番町の角で街を支えてくれた「森天祐堂」の姿が見えなくなって3年強。おそらく非常に多くの方に知られ、また実際に利用された方も多かったのだろうと思います。
メインの看板は「額縁の店」としていましたが、考えてみるとこれも非常に珍しかったのではないでしょうか。今や、仮に額縁が急に必要となってもどこで売っているのか見当もつきません。額縁のほかには、たばこや各種チケット、そして宝くじなども取り扱っておられましたが、特にチケット関係では必ず「森天祐堂」の名が出るほど有名だったのは広く知られるところです。
ほとんどの場合お店にはお父さん、お母さん、そして若旦那さんのうち、だいたいいつも2人がローテーションで入っておられ、たいていお母さんか若旦那さんがお店の角にちょこんと座り、お父さんは額縁売り場側に上がっていらっしゃるというのが定位置だったように思います。
実は20年以上前、仕事の関係で森天祐堂さんを重要なお取引先として一時期担当させていただいていたことがあるのです。まだ20代の未熟営業マンだった私を、温厚なお父さんや常に笑顔で活発だったお母さん、お兄さんのような存在で当時ホンダのS600を所有しておられた若旦那さん、皆さんから温かく育てていただいたことを今でも忘れることが出来ません。
森天祐堂の隣には「あさひ」という蕎麦屋もあり、藤崎に来られた年配のご婦人方や、昼時には多くのサラリーマンで賑わっていました。また、その中間で永年「靴磨き」を開いておられたおじさんもいらっしゃって、通るたびに一度体験してしてみたいと思っていたのですが、商売とはいえ親ほどの目上の方に靴を磨いてもらうことに抵抗があり、とうとう実現出来ませんでした。
当時は多くの方がポケットの小銭でタバコなどを買いに気軽に訪れた森天祐堂でしたが、今や小銭だけではとうてい買い物など出来ないような高級なお店へと変貌してしまいました。今はただ、森天祐堂のご家族がお元気でお過ごしでいらっしゃることを願うばかりです。