どれ、そろそろ会議をはじめるぞ。皆の衆は集まるがよい。今日の議題は「酢豚」だ。
いやいや親方、皆の衆つったって、親方と私しかいないじゃないですか。
・・・。まぁ、さっそく始めっけども、酢豚にパイナッポーは入れる方向でいいな?
いや~、ズバリきましたね。それはヤバいんじゃないっすか?
何がどうヤバいんだよ。このやろ。
このやろって・・。とにかく、今の人たちは酢豚にパイナッポーはヤバいですってば。
ばーろー。オレがこの世界に入ってからはな、酢豚にパイナッポーは必ず入れるんだよ!最初の師匠の酢豚もそうだったし、修行時代から酢豚はずっとそうだったんだよ!
親方、それは分かりますよ。分かりますけどもね、時代とともに嗜好も変化するもんです。今では半数以上の人が、酢豚にパイナッポーは不要だと感じているらしいっすよ。オカズにパイナップルなんて、キモイぃ~!シンジラレナ~イ!って。
なんだよ!このやろ。だいたいにして、酢豚はオカズじゃなくて、れっきとした肉料理だぞ。
親方、お客様に対して「このやろ」ってのはやめましょうよ。それに、肉料理とは言え、ウチだってランチではご飯と一緒に出しているじゃないっすか。とにかく、酢豚にパイナッポーを入れるのは止めましょう。それで万事OKっすよ。ね?
オマエなぁ・・。パイナッポーの気持ちになったこと、無いだろ?
ありません。
だよな。
親方はパイナッポーの気持ちになったこと、あるんすか?
ない・・。ほいじゃさ、脇にそっとパイナッポーを添えるってのはどうだ?好きな人は一緒に入れて食べればいい。嫌いな人には食後のデザートだ。どうだ?とにかく、こいつらを離縁させたくないんだよ。な?いいだろ?
さすが親方!それは良いアイディアっすね!とにかく一緒に炒めなければ大丈夫っす。そうしましょう!脇にそっとパイナッポーを添えることにしましょう!
よし!これで一件落着だ。今日の会議はここまで!
いやいや親方、チョッと待ってください。親方は八宝菜の気持ちになったこと、ありますか?
ありません・・。
でしょ?八宝菜は、なんで酢豚だけデザートが付くんだと言っているわけですよ。デザートならこっちにも付けてくれと。
ばーろー!八宝菜にパイナッポーなんて、聞いたこともねぇし邪道だ!
親方、これは食後のデザートですよ?最後にパイナッポーで、お口もスッキリです。決して酢豚に限ったことでもなく、油っぽい中華料理にはパイナッポーを添えるべきでは?
ちっ・・ったく・・。分かったよ。八宝菜の言う通りにしてやれ!
リョーカイっす!
いやぁ・・一気に疲れたな・・。次回の議題はなんだ?
杏仁です。杏仁豆腐に、サクランボを入れるかどうかです。
これまた紛糾しそうな議題だな。まぁ、いいさ。よし!仕事に取り掛かるぞ。今日も「日常の五心」を声に出して言ってみろ!
分かりました! 親方!