先月の初旬。お世話になっている先輩から一通のハガキが届きました。さっそく目を通すと、「日本刺繍 ”一針の想い”」とあります。そう言えば、ちょっとした趣味で刺繍をやられているようなことをお聞きしたことがありましたが、今回はその趣味のお仲間同士で開催される作品展のご案内でした。だいたいにして「日本刺繍」とはなんぞや。まったく柄にもないわけですが、出掛けてみたのです。
調べてみると、「刺繍とは、布地あるいはその他の素材に針とより糸で装飾を施す技術、もしくは手芸のこと」とあり、日本刺繍とは「絹糸を両手を使って刺していく刺繍のことをいう」のだそうで、原点はなんと平安時代以前と言われているので、我が国を代表する伝統工芸の一つなのでしょう。
いずれにしても、私のような足軽には実に高尚な世界に思えるわけですが、歳を重ねるにつれて和風総本家的な風情に興味を覚えるようになり、この日本刺繍の世界は一見の価値有りと感じたのです。
まるで絵画展のような、素晴らしい日本刺繍の数々。これは・・すべて、手仕事・・なんですか?
恐る恐るも、失敬なことをお聞きしてしまいました。おそらく、私たちもふだんから何気に目にしている刺繍ですが、もちろんその多くは機械刺繍。この日本刺繍は完全な手刺繍であるとともに、ここに展示されている作品は専門の職人が作ったものではなく、すべてが趣味のお仲間の作品だということに驚きを隠せませんでした。スゴい。スゴ過ぎます。人の手で、こんなことが出来るのだろうか。
思わず欲しくなるような作品も多かったのですが、残念ながらこれらは売り物ではなく、趣味の会の皆さんが一針に想いを込めて作られた展示用の作品なのだとか。まったく手に職が無く、口だけで生きてきた私にとっては単に想像しか出来ない世界ですが、数ヶ月単位だという作業期間を考えれば、ひとつの作品が完成した時の喜びや充実感は、おそらく何物にも代えがたいものなのでしょう。
ちょっとした趣味で刺繍をやられていると思っていた先輩は、なんとこの会を主宰する「先生」でありました。参りました。このような高尚な趣味をお持ちだったとは。
仮に私がこれに挑戦したならば、おそらく針に糸を通すだけで3日はかかりそうですが、一方で、この日本刺繍という伝統工芸の存在をより多くの人たちに知ってもらい、一人でも多くの人に技を継承していただくべきだと感じたことも事実です。
次回はいつやられるんですか?とお聞きすると、ある程度の数の作品が揃うまでのことを考えると、数年後かしらねぇと。いやいや、是非ともまた来年にでも開催してくださいよ。
一針の想い。これが医師や看護師からのご案内であれば腰が引けますが、日本刺繍の一針の想いには、少し共感できそうな気がしました。