約30年ほど前、学生時代に初めて訪れた東京ディズニーランド。その衝撃は凄まじいものでした。笑われるかもしれませんが、ここで働きたいとさえ思ったのです。日常とは隔離された夢の世界。訪れる人々に楽しみと喜びを与える仕事は、どんなに素晴らしいことでしょう。
残念ながらその志は叶いませんでしたが、それ以来ずっと心のどこかに、接客サービス業へ対する憧れのようなものを持ち続けているのは確かです。おそらく世の中のどのような仕事でも、広義で考えればサービス業なのかもしれません。たとえ直接お客様と顔を合わせる機会が無いとしても、自分の仕事の結果がお客様に喜ばれるかどうかを常に気にするわけです。
以前、ザ・リッツ・カールトンのホスピタリティに関する本を読んだことがありました。その理念と実行力は素晴らしいものでしたが、少々疑問に感じたのも事実です。その素晴らしいサービスを受けるために、なぜお客様はとても高額な料金を支払わなければならないのだろうと。その素晴らしい自慢のサービスなら、より多くの人たちに提供すればもっと喜ばれるだろうにと。
お客様が喜ばれるかどうかを常に気にすることは、はたしてサービスを提供する側で膨大なコストがかかることなのだろうかと素人考えで思ったわけです。もちろん「人」を教育して育てることは大変なのでしょうが、直接的な原価が発生することのない「接客サービス」において、それほど大きな格差が生まれること自体が本来は不思議なことかもしれないと思ったわけです。
幸運にも鎌先温泉の「みちのく庵」に宿泊する機会を得て、そのようなことを思い出しました。ここは特に何か奇をてらったサービスを用意しているわけでもなく、これまで見たことの無いような豪華料理が出てくるわけでもありません。しかし、こじんまりとした山の中の一軒宿ゆえ提供される静寂さと、それを邪魔することのない心地良い接客サービスが用意されています。
規模に応じたそう多くないスタッフは全員が自然な笑顔を持ち、そして極端にかしこまることもなく、まるで私たちを大切な家族のように接してくれるのです。室内の備品や寝具にしても、おそらくこれまで多くのお客様の意見に耳を傾け、それらを実際に自分たちで試してみるのでしょう。
平屋建て全10室の造りは、サービスを提供する側からすれば目が届くちょうど良い規模なのかもしれませんが、私たちからしてもお風呂で他人様と会わない確率が高く、静かにゆったりと過ごすにはちょうど良い空間と言えます。
「四季の宿 みちのく庵」。その魅力は、まず「人」有りきなのかもしれません。自分たちの仕事の結果がお客様に喜ばれるかどうかを常に気にされているスタッフが揃っているからこそ、これらの総合力が生み出されるのでしょう。