キング食堂

これほど堂々とした店名は他にあるでしょうか。その昔、一番町に「キング&クイーン」というディスコがありましたが、この食堂にとって「クイーン」は必要無いのでしょう。若林区の穀町にお店を構える、その名もズバリ「キング食堂」。思い切って、王様にお仕えしてみることに。

荒町商店街を西側の国道4号線側から入って真っ直ぐ進み、突き当りの南鍛冶町をカクンと右折して、三百人町方面へすぐにカクンと左折しないで真っ直ぐと。このあたりは昔からの街並みが残る旧市街地ですが、残念ながら震災後は風景が少し変わったように感じられます。

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この付近の食堂では、以前のブログでも記事にさせていただいた「岳陽楼」や「ふじ食堂」などが老舗なのですが、この「キング食堂」もずいぶん前から目にしていたわけです。以前に若林区内で暮らしていたこともあって、この道路はしょっちゅう通っていたにもかかわらず、なぜかここだけはお邪魔したことがありませんでした。その店名に、尻込みしていたのでしょう。

昔は相当に古い建物だったはずですが、何年か前に新しく建て直したようです。確か向かって左隣りにも古い商店があったのですが、今は取り壊されてしまいました。さて、店舗に向かって右側からクルマを奥へ進ませると、突き当りに数台分の駐車場が用意されています。これは実にありがたいことで、こういった立地にある町の食堂としては例を見ない配慮です。

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時刻は13時過ぎ。思い切ってのれんをくぐると、なんと他にお客様はおらず、私一人。これはヤバい。キングと一対一です。店内は、4人がけのテーブルが2つに、3人分の椅子が用意されるカウンターだけといった予想以上に狭い様子。静まり返った店内に響くのは、テレビの音だけです。深呼吸してメニューを眺めてみると、ぎょっ!創業1938年だとあります。

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厨房内に陣取っておられるのは、店主らしきご主人がお一人。ラーメンをお願いします・・。はい、ラーメンね。・・・。うわぁ~この空気感じゃ、勝手にカメラなどを取り出せません。まぁまぁ、こういうこともあるでしょう。今回は黙って、のんびりと老舗の味を楽しむことにしましょう。

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と一度は考えたのですが、どうも様々なドラマがありそうなお店です。そこで思い切って世間話しから切り出したところ、いろいろとお店に関することもお話ししてくださいました。

昭和13年に先代が創業されたという「キング食堂」。当時の国内でもっとも人気が高くて発行部数も多かった「キング」という小説雑誌から店名を取られたこと。そして戦時中にはこの「キング」という店名の使用を禁止されたこと。2代目の現店主はお店を継ぎたくなかったことなど・・。

ご主人が高校を卒業される頃に先代が病に倒れられ、本当は違う道に進む夢をお持ちだった三男坊のご主人が、結局このお店を継ぐことになられたと、苦笑いされながら教えてくださいました。いや、たとえそうだとしても、それからすでに四十数年とは、並大抵のことではありません。

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4年前にお店を建て直し、以前よりも規模を小さくされたのだとか。たまたま他にお客様がいなかったことが幸いしてか様々なお話しをお聞きすることができ、もちろん撮影もご快諾をいただきました。500円のラーメンは、ほのかに野菜の甘みを感じる後味で実に美味しい一品。

今こうしてお店があるのはお客様のおかげで、家族全員の助けもあったからだと。しかし、息子さんには絶対に後を継がせたくないとおっしゃるご主人。でも、無責任な私たち客側からすれば、これだけ老舗の看板は下ろしていただきたくないですよ。息子さんも年齢を重ねたら、もしかしてご自分からこのお店を継ぎたいとおっしゃるんじゃないですか?と申し上げたところ、どうだかなぁと。そのお顔には、ほんの少し含みを持った嬉しそうな目が見えました。