一杯の贅沢

私が学生の頃、仙台市内に「珈琲館」という喫茶店がありました。確か佐々重ビル向かいの水晶堂2階と、そして「かき徳ビル」にもあったはずです。当時は多くの喫茶店があったなかで、ここはどちらかと言えば本格的なコーヒーを出してくれる、重厚な雰囲気のお店でした。

CIMG0544

ブレンドコーヒーや各種ストレートコーヒーはもちろん、カフェオーレやウインナーコーヒー、カフェ・ロワイヤルなどのアレンジコーヒーも多く、それらを作るお店の方々はまさに「職人」といった雰囲気で真剣そのもの。その作り方を見ているだけでも十分に楽しめたのです。

CIMG0538

CIMG0542

実は私が学生時代のことです。「珈琲館」ご出身の方が大河原町で開店された喫茶店でアルバイトをさせていただいたことがあるのですが、今思えば、当時の職人系のマスターがやっておられたお店の一つでした。店内にはガラス張りの自家焙煎室も設け、メニューには「珈琲館」仕込みの手の込んだ逸品ばかりが揃えられていたのです。もちろん、アルバイトの私はホールの担当。

ホールとは言え簡単ではありません。カウンターで作られた芸術的なアレンジコーヒーを、そのままのカタチでお客様のテーブルまで運ばなければなりません。そして、もっとも緊張したのはカフェオーレ。銅のポットに入れられた深煎りのコーヒーと、同じく温められたミルク。お客様のテーブルで、2つのポットを同時にカップへ注ぎながら下から上へ高く掲げるのです。

CIMG0548

CIMG0550

いつの頃からか、徐々にコーヒーやエスプレッソを作るマシンが導入されるようになり、アレンジコーヒーはエスプレッソベースで作られるカフェラテやカフェモカなどの、いわゆる米国発祥のモノに取って代わられることになりました。ウインナーコーヒーでさえ今は珍しい飲み物となり、2つのポットで同時に注いでくれるカフェオーレなどは、あれ以来何十年間も見なくなりました。

CIMG0561

もちろん、今は「バリスタ」という職人が活躍する時代。昔とは違った技術を持って大いに活躍されていることは承知しています。でもなぜか、あの頃に味わった「一杯の贅沢」も思い出すのです。