ピアノ調律師

私のように「口」だけで生きてきた人間にとっては、何か特殊な能力や手に職を持っておられる人に対しては、もう無条件で尊敬の念をいだいてしまいます。様々な技術者やエンジニアから料理人や各種職人まで、なぜこんな事が出来るのだろうと真剣に見入ってしまうのです。

特に隠すつもりはありませんが、なにを隠そう私の兄はピアノ調律師です。5歳上の兄がなぜピアノ調律師を志したのかは聞いたことがありませんが、私がプラプラした学生時代を過ごしていたころにはすでに調律学校を終えていたはずで、この道30年は超えるのでしょうか。

IMGP4855

兄に対しては絶対服従だった子供時代。5歳も離れていると本気の喧嘩には成り得ないのですが、事あるごとに兄のパシリ役として奔走していたその頃。今でも決して体育会系とは言えない私に、目上の人へ対する姿勢を叩き込んだ兄には感謝すべきなのかもしれません。

IMGP4879

IMGP4886

IMGP4890

IMGP4860

これまで、兄の仕事の現場を訪ねたことはほとんど無かったのですが、考えてみればピアノ調律師も立派な技術者。そう考えているうちに是非とも見学したいという気持ちを抑えられなくなり、絶対に邪魔をしない約束で見学をお願いしてみると、意外にもあっさり OK との返事が。ちょうど仙台市内の大学内でグランドピアノの調整があるので、その時にでも見に来たらどうかという返事でした。

IMGP4875

IMGP4914

IMGP4889

IMGP4913

その大学内にあるホールのステージに置かれた2台のピアノ。そのうちの1台を兄が担当しているようですが、そのピアノ自体がかもし出す存在感がものすごいのです。そのすべてが美しく、ピアノの内部はまるで高級スポーツカーのエンジンルームを覗いているような錯覚にも陥ります。それに対して、全神経を集中させて調律に取り組む技術者。こちらも真剣です。

考えてみれば、ギターやバイオリンなど演奏者が自らチューニングする楽器が多いなかで、ピアノは演奏者とチューナーが異なる代表的な楽器のようです。ある意味、素晴らしい演奏の影には常に彼ら調律師の仕事があり、両者が一体となって良い結果が生まれるのでしょう。

IMGP4895

同じ「A」の音でも、そのホールや演奏者によって440Hzから442Hzまで変えて調律しなければならないなど、想像を絶する話しを聞かせてくれるのですが、おそらく私には50年かかりそうな世界です。これですからピアノ調律師に限らず、私が出来ないことを平然とやってのける方々への興味は尽きず、いつまでも時間の許す限り見ていたくなってしまうのであります。